——ふと夜中に誰もいない庭へ出た。その日の月は綺麗だった。何千回死んで見た月かわからないが、とても綺麗な月だった。
蟲の鳴く庭先で一人私は、空を見上げていた。私の隣にはいつの間にか君がいて、私の震える手をそっと手を握った。
ただその手が暖くて、意味もなく泣きそうになってしまった。
「どうした。お前がなくなんて珍しいじゃないか」
そういうと静かに笑って君は私から溢れた感情を舌で舐めとった。
それが君にとっての「特別な存在」に私がなろうとしたきっかけだった。
——ああ、気づかなかった。
——こんなにも生きていることは素晴らしいんだって。